#05

(SKI)

Photograph

(前編)スキー狂の写真家・渡辺洋一が
ニセコで追い求め続ける、本当の豊かさとは。

渡辺洋一
(写真家)
スノースポーツの聖地として、世界各国からスキーヤーやスノーボーダーが集まる北海道・ニセコ。羊蹄山の裾野に広がるその街で、およそ30年間、スキーガイドと写真家として生きてきたのが渡辺洋一さんだ。いまでも冬の時期は、朝に必ず新雪を滑り、カメラを携え森を歩く。彼の人生は、自然の中で「外遊び」を続けることで切り拓かれてきた。スキーに魅せられた少年時代から、30歳でニセコへ移住。スキーや雪に関連する多くの写真集出版や、スノーカルチャーマガジン『Stuben Magazine(スチューベン マガジン)』の創刊、そして次なるステージへ。本当の豊かさを求め続ける写真家の物語を、軽やかな雪が降り積もるニセコの街で聞いた。

スキーに魅せられ、雪国へ。

小学3年生の冬、静岡で生まれ埼玉で育った少年は初めて雪山と出会った。友人に誘われ訪れた新潟県のスキー教室。「初めて見た真っ白い景色。なんて綺麗なんだって思いましたよ」。そして、風を切って滑る感覚は、子供の頃から大好きだった自転車に乗る時の高揚感に似ていた。それが渡辺さんのすべてのはじまりだった。

中学からは競技スキーの世界へ足を踏み入れ、高校大学時代は全国大会にも出場。私生活では「原宿のBEAMSなど好みの洋服を探し、街も楽しんでいた。どう生きたいか、何をやりたいのかも常に考えていて、自分で道を切り拓いていたと思う」と振り返る。

雪国への憧れは募り、大学は岩手県花巻市の新設校へ。スキー場が近く、雪国で暮らせることは、渡辺さんにとってこれ以上ない環境だった。ここでも、持ち前の行動力を発揮し、スキー部を再編成。3年間主将を務めた。就職活動では、東京・表参道のブティックでグレーのスーツを仕立て、見事一流企業に内定をもらう。自分でも「スキー狂い」と称するほどスキーを愛する渡辺さんは、就職してもなお、合間をみつけてはスキー場へ通い続けた。そして運命は、渡辺さんを雪国へと導いていく。北海道支店への転勤が決まったのだ。

30歳、パウダースノーに導かれニセコの地へ。

北海道の転勤からほどなくして、初めて極上のパウダースノーと出会った。「急斜面で、雪が降っていて、スキーを滑ったらフワッて浮くんですよ。そこでもうやられちゃいましたよね。『なんだこれ!』って」

雪に煙る斜面。体が宙に浮くような感覚。これまでいくつもの斜面を滑ってきたが、まったく違うスキー体験だったという。たった一度で、すっかりパウダースノーの魔力に取り憑かれた。

同じ頃、1973年から続くアメリカのスキー専門誌『POWDER Magazine(2020年10月に休刊)』に出会った。そこには、競技でも基礎スキーでもない、自由なスキーの世界が広がっていた。「パウダーっていうのは自由を表すんだって思ってね」。雑誌の中にあるシューティングギャラリーというコーナーには、世界中の雪山を滑る写真と、撮影したフォトグラファーのクレジットが載っていた。こんな世界があるのかと、会社員の渡辺さんの心は揺れていた。

まだパウダーの経験は浅かったものの、友人とカナダのウィスラーへ旅立つことに。もちろん目的はパウダーを滑ること。そこで撮ってもらった1枚の写真は、今も自宅に宝物として残っているという。「撮られるのって嬉しいじゃないですか。人生を変えた1枚ですね」。

29歳の頃には会社を辞める決断をした。「会社員として生きていくんじゃなく、自分がやりたいことに忠実に生きようと思って。だから雪山が近くて、スキーがそばにあるコミュニティで生きていこうと思ったんです」。行き先はニセコ。知り合いは一人もいなかった。会社を辞めて1週間後には、ヒラフスキー場の真下の小屋を借りて、新しい人生が始まった。

白樺の森を抜ける風。雪を纏った針広混交林。ニセコには、本州にはない独特の自然が広がっている。シラカンバ、ウダイカンバ、ダケカンバと、標高によって樹種も変わる。その森を滑り、歩き、撮ること、そのすべてに夢中だった。

そうして、雪国での暮らしを送る中で、渡辺さんはひとつの答えに辿り着く。ウィンタースポーツとしてのスキーの魅力だけではなく、その背景に息づく文化や歴史、雪のある生活の豊かさを伝える雑誌『Stuben Magazine』の創刊だ。「スキー雑誌はあくまで道具やウェア、技術を売るためのメディア。最も大切な、自然の中での暮らしについての記事は少ない。だから自分たちで作ることにしたんです」。プロとして写真を撮ること、そして雑誌を作るまでに至るその原動力とは。

後編へとつづく。
www.beams.co.jp/happyoutsidebeams/6374/


Photo:Fumihiko Ikemoto
Text:Keisuke Kimura
Edit:Jun Nakada

  • PROFILE

    渡辺洋一

    1966年静岡生まれ。埼玉育ち。北海道ニセコ高原在住。ウパシプロダクション主宰。ガイド・写真家として雪国に暮らしながら、北海道のみならず、全国の自然の景色を写真におさめ続ける。2015年には、雪国の感性、創造力を発信するスノーカルチャーマガジン『Stuben』を編集者の尾日向梨沙と創刊。近著には写真集『橅』2024年1月を出版し、精力的に活動を続けている。

その道の達人たちに学ぶ、外遊びを全力で楽しむための秘訣。

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