ISSUE

Fatigue Pants

GUEST

Daiki Suzuki

from ENGINEERED GARMENTS

2019.05.01

PHILOSOPHY OF BEAMS PLUS

VOL.10

<BEAMS PLUS>のワードローブになくてはならない
普遍的なアイテムを作ってきた識者たちの、
見解やエピソードから紐解く知られざる魅力。
それは過去の名品を未来のスタンダードへと
紡ぐために必要なストーリーであり、
<BEAMS PLUS>が大切にしたい新しいフィロソフィー。

vol.10

鈴木大器(エンジニアド ガーメンツ・デザイナー)1962年生まれ。東京・渋谷にあるアメリカンカジュアルの名店「レッドウッド」などで販売員や店長を経験後、セレクトショップ「ネペンテス」のバイヤーへと転身、'89年に渡米。'99年に同NYオフィスが企画するハウスブランドとして<ENGINEERED GARMENTS(エンジニアド ガーメンツ)>をスタート。今では希少なメイド・イン・USAにこだわり、“ アメリカ人よりもアメリカらしい洋服をつくる日本人デザイナー ” と知られるように。2008年にはCFDA(米国ファッションデザイナー協議会)&米国『GQ』誌が選出する「第1回・最優秀新人メンズウェアデザイナー」を受賞。現在もNYを拠点に活動する。

ファティーグパンツは、
いわばジーパンのような存在です

ほかの軍パンにはないほどシンプル
それこそが最大の魅力

「ファティーグパンツは、アメリカ陸軍の作業用ズボンのこと。おそらく軍に採用される以前から存在していた形だと思われます。 “ ユーティリティパンツ ” や “ OG-107 ” とも呼ばれますが、僕らが若い頃は誰も名称なんて知らず、ただ軍パンやアーミーパンツと言っていました。両脇にカーゴポケットを備える6ポケットパンツと区別するときは “ 4ポケット ” とも呼んでいましたね」

「現在、日本では “ ベイカーパンツ ” の呼び名が浸透していますが、アメリカでは耳にしないので、もしかすると和製英語かもしれません。少なからず僕が渡米する以前はファッション業界でも使われていなかったので、'90年代に生まれた言葉だと思います。このデザインの白いタイプをベイカー=パン職人が穿いていたとか、パッチポケットが食パンのように見えるからなど語源は諸説あり、詳細はわかりません。

正式名称は「TROUSERS, MEN'S COTTON SATEEN OG-107」。
OG-107はOG=オリーブグリーン、107=軍指定の色番号を示す。

典型は、基本的に1種類の生地で作られ、前開きはボタンフライ。フロントにはパッチポケットが左右に1つずつ、バックの両側にも1つずつフラップ&パッチポケットが付きます。ほかの主要なミリタリーパンツとは違い、すべてのポケットがパッチ式なのは、手間の掛からない仕様なので生産性が高く、かつ丈夫なことが理由かと。6ポケットは野戦用ですが、こちらは作業や基礎訓練、工場など幅広く穿かれたもの。そもそもの用途が違い、より大量供給が必要なので理にかなっています。また先に開発された分、いっそう構造がシンプルなのだと推測できます。

最初期の生地はコットンのヘリンボーンツイル、1950年代の半ばからは現在よく知られているコットンのバックサテンに変わり、'70年代後期にはポリエステル混になりました。また最初期モデルはセパレートウエストなのに対し、以降はハリウッドウエストになっています。ほかにもアジャスタータブの有無、ボタンの素材、頑強なWステッチから効率的なシングルステッチになるなど年代によってディテールやシルエットが異なり、さまざまな変遷があります」

最初期型はヘリンボーンツイルで、腰帯が切り替えられたセパレートウエスト。
以降の生地はバックサテンになり、身頃と一枚仕立てのハリウッドウエストに。

決して、お洒落なアイテムではなかった
僕のイメージを変えたのはスケーターたち

「アメリカでは軍のサープラスが安く民間に出回るので、日本より早いタイミングで一般人にも着られていたはず。とはいえ、あくまで作業ズボンや日常着であって、お洒落で取り入れる感覚は皆無だったのでは。僕らは、そうした姿を映画なのか海外ドラマなのかで無意識のうちに目にして、アメリカ人が穿いているってだけで何だか格好良く見えていたのが最初だと思います。

実際、日本でファッションアイテムとして受け入れられたのは、おそらく'80年代の初め。僕は20代前半でしたね。当時『スラッシャー・マガジン』なんかを読んでいると、アメリカのスケーターがネルシャツのボタンを一番上まで留めて、6ポケットの軍パンを穿き、足元はバスケットボールシューズを合わせているスナップ写真が掲載されていて、そのスタイルがすごく眩しく映った。

もっとも、それ以前からアメ横などでは山のように格安で売られていましたが、お金のないバンカラな若者が買うアイテムで、むしろダサい位置づけでしたね。しかもオリーブグリーンは国防色と呼ばれ、親世代や年配者からは自衛隊員か熱心な保守派だと決めつけられるような時代でした。かく言う僕自身も、世間と同じように捉えていた時期があり、買う気にはなれなかったけど、スケーターの着こなしを見てイメージが一変したんです」

「そして僕が販売員をしていた、渋谷にあるアメリカンカジュアルのインポートショップでも取り扱うようになりました。ただ案の定、お客様はかなり抵抗があったようです。よく言われましたよ、「コレって格好いいんですか?」って(笑)。それでも僕らがオススメするのを信じて買ってくれて方の多くは、気に入っていただけた。そこから手応えを感じて精力的に扱うことになり、実際よく売れましたね。

とはいえ、既に定着していたジーパンやチノパンほど広く浸透したわけでもなく、まだまだ一部の若者だけでした。僕も東京では平気だったけど、軍パンで青森に帰省するのはマズイかも、という気持ちはあった。そんな折、地元の友人から結婚式に招待され、タキシードを購入しました。シャツにタイ、ちゃんとドレスシューズも履いて。だけど、どうもシックリとこない。それで下だけファティーグパンツに変えて出席したんです。自分では格好いいと思っていましたが、内心は大丈夫かなってドキドキしていました(笑)」

軍パンのコーディネイトは、いろいろな方から影響を受けましたね。それこそビームスの店員さん、バックドロッブで働いていた友人といった周りのショップの人たち、あと、お客様にも刺激を与えてもらった。自分では考えもしない合わせをする方もいて新鮮でしたね。

なかでも印象に残っているのは、デザイナーズブランドに勤めていた女性のお客様。ファティーグパンツに普通のボタンダウンシャツ、そしてローファーという着こなしがスマートにハマっていて、とても素敵だった。その後、彼女はスタイリストとして活躍し、現在は自分で立ち上げたブランドも好評なようです。そうそう、熊本でセレクトショップを営んでいる業界の大先輩も格好良かった。英国のテーラードジャケット&ベスト、ハイカラーのシャツ、ドレスシューズでビシッとキメているんだけど、ボトムスはオーバーサイズのミリタリーパンツ。そういう脈絡のない合わせは僕も好きですね。著名人ではジョン・ベルーシ。亡くなったあとに雑誌で特集が組まれていて、その表紙で彼がファティーグパンツを穿いていた。体型やキャラクターも含めて似合っていて、大好きな写真です」

俳優でありコメディアン、ミュージシャンでもあったジョン・ベルーシを総力特集した
雑誌『Switch』(扶桑社)1986年8月号の表紙。

これ以上でも、これ以下でもダメ
そこにベーシックの真髄を感じる

「これまで米軍をはじめ、世界各国、あらゆるミリタリーパンツを買い漁ってきました。それでも最終的には、4ポケットのファティーグパンツに戻ってきた。最初にお話したとおり、構造もデザインも必要最低限のシンプルなことが最大の魅力で、これ以上あるとダメで、これ以下でもダメ。そこにベーシックの真髄のようなものを感じます。

5ポケットジーンズやチノパンと同じく、完成された形なんでしょうね。主張しすぎず、何にでもマッチする点も共通しています。特にジーパンとは近く、たくさんジーパンを所有していても1本ずつ微妙に色味や丈が異なるように、ファティーグパンツも違う。だから僕のなかでは、ジーパンのような存在なんです」

ファティーグパンツに出会ってからは、ずっとコレばかり。ほかを穿くのは年1~2回。よく周囲からは、いつも同じパンツだと言われます(笑)。同じように見えて、毎日違うんですけどね。所有数は把握していませんが、棚に積み上げて壁一面がオリーブ色で埋まっています。逆にオリーブ色のトップスはMA-1くらいで、それ以外ほぼ持っていない。ミリタリーが好きなので欲しくなりますが、上下となると本物の兵士のようになってしまうので、あえて買わないよう意識しています。同色でなければ大抵のカラーは合いますが、白やネイビー、ベージュのトップスを着ることが多いですね」

「<ENGINEERED GARMENTS>はパンツ専門ブランドとしてスタートしました。しかし、当初のラインナップにファティーグパンツはありませんでした。もちろん作りたい気持ちはあったものの、まだ古着で安く買えた時代だったので、新品で提案する必要がなかったんです。けれど僕は、毎日毎日、ヴィンテージのファティーグパンツを愛用していた。すると、それも<ENGINEERED GARMENTS>ですか?と尋ねられるから、2001年頃になって初めてリリースしたんです。わりとヴィンテージそのままのルーズシルエットで発表したのですが、当時はショートライズのスリムなパンツが流行り始めた時期。こうした股上が深くて太いタイプは求められていなかったので、さほど売れなかった。ならば、股上を浅めにして、少しテーパードさせれば、みんなの気分にフィットするのではと発売したのが2003年頃です。

以来、ファティーグパンツはブランドの定番になりました。ただし何か特徴をもたせたいとテーラリングの仕様を取り入れたり、ウール生地を使ったり、ジップポケットを追加したり、シーズンによって変化させて。しかし数年前、やはりファティーグパンツは素のままが一番だと思い直し、ベーシックに戻したんです。アチコチ回り道をして、結局は一番最初のところに帰ってきた。改めてシンプルであることの素晴らしさに気が付かされましたね。それが今のリアルな感覚なのだと思っています。そうした自分の考えは長い年月のなかで何度も変わってきましたし、この先も少しずつ変わっていくはず。ファッションは常に変わり続けるものだから、それでいいと思っています」

「<BEAMS PLUS>から頂戴した今シーズンの別注テーマは “ 鈴木大器が<BEAMS PLUS>の20周年パーティで着たいセレモニーウェア ” 。お題だけ受けて、あとは自由に表現させていただき、ファティーグパンツへと落とし込みました。先ほどお話した、タキシードジャケット&ファティーグパンツで結婚式に出席した、20代の実体感からインスピレーションを得ています。

あれ以降、ドレスアップを求められるシーンでもボトムスだけは軍パンという服装をよくしているので、すぐにそのイメージが浮かびました。ジャケットはショールカラーでエレガントな雰囲気だけど、下はファティーグパンツ。元々のリクエストは上下ともにブラックでしたが、僕のワガママでオリーブ色のボトムスも追加しました。ただしジャケットと一対になる親和性を感じられるよう、タキシードパンツのように黒の側章をあしらっているので、セットアップでも違和感なく合わせられます」

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JPEN
PHILOSOPHY OF BEAMS PLUS

volume.10