ISSUE

BACKPACK

GUEST

Takao Fujimoto

from STANDARD SUPPLY

2020.01.30

PHILOSOPHY OF BEAMS PLUS

VOL.14

<BEAMS PLUS>のワードローブになくてはならない
普遍的なアイテムを作ってきた識者たちの、
見解やエピソードから紐解く知られざる魅力。
それは過去の名品を未来のスタンダードへと
紡ぐために必要なストーリーであり、
<BEAMS PLUS>が大切にしたい新しいフィロソフィー。

vol.14

藤本孝夫(スタンダードサプライ・バッグデザイナー)1965年長崎県生まれ。アメリカ文化に影響を受けた少年時代を過ごして上京。大手バッグメーカーでメンズチーフデザイナーとして活躍し、2004年に独立。国内外の主要なバッグブランドのデザインを幅広く手掛けるなどして2006年にエバーグリーンワークスを設立。同年に『ARTS&CRAFTS(アーツアンドクラフツ)』ブランドをスタート。2014年に余白美を感じるクリーンなデザインで、長く愛されるプロダクツを提案する『STANDARD SUPPLY(スタンダードサプライ)』をスタート。小さな革小物から大きなキャリーバッグまで作り続ける、キャリア34年のバッグデザイナー。

生活に密着する道具は
素材の進化とともに形を変えた

木製のフレームと布製の袋を取りつける
基本的な構造は変わらない

「私が知る限り、アメリカにおけるバックパックの歴史は、この<TRAPPER NELSON’S>のバッグボードから始まっていると思います。タグにも”INDIAN PACK BOARD”と書いてあるように、おそらくアメリカの先住民が使っていたボードを工夫して、使いやすいように進化させたもの。狩猟した時に獲物をくくりつけるために、作ったのではないでしょうか。この木製の枠を単体で使うのではなく、キャンバス製のバッグを取りつけたものが、いわゆるバックパックの原型と言えるのではないでしょうか?下部を見ると針金のようなピンで固定する箇所が残っています」

「これを進化させたものが、1952年に初めてのバックパックの誕生と言われる<KELTY>のアルミフレームバッグです。木がアルミになり、布がナイロンになっていったように構造は変わらずとも、素材の進化がバックの形状を変えていったことになります。このあたりのフレームバッグは様々なブランドで作られました。そして1970年代になると、上下2層式のバックパックが同じく<KELTY>から発売されます。ジップを使って荷室を分けるコンパクトな形状は、日帰りパッカーが最低限の衣類や食料を入れるにちょうどよいサイズでした。それが当時のバックパッカーのカルチャーやヒッピームーブメントと密接に繋がったことで、フレームのないリュックが大衆向けというか、趣味のハイキングなどの需要で進化していったようです」

<KELTY>のアルミフレームバッグ(左)と
<TRAPPER NELSON’S>のフレームバッグ(右)

欧州のブランドが華やかに見える一方で、
GREGORYは高嶺の花だった

「とはいえ、当時ヒッピーたちが山に籠る際に使用していたのは、大きなアルミフレーム製が主流でした。しかし1970年代後半から80年代にかけて、それまでのアウターフレームはインナーフレームとなってより軽量化され、次第に姿を消すようになりました。80年代半ばは僕がちょうど二十歳の頃で、神田のグリーンライフスポーツ(2011年に閉店)で買った<MILLET>の赤いインナーフレームのバックパックが印象深く残っています。これを背負ってキャンプに行ったり、青春18きっぷを買って電車を乗り継ぎ、地元の九州に帰省したりしていました。その頃は、少し大きな荷物を運ぶ時はダッフルバッグやボストンバッグの方が人気だったと思います。僕はヒッピーにあこがれ、もともとキャンプやアウトドアが好きだったこともあり、新大久保にあったエイアンドエフや神保町のさかいやスポーツとか、アメ横のお店をよくまわってバックパックを物色していました」

70年代の<THE NORTH FACE>のフレームバッグ

「僕自身は中学時代から『ポパイ』少年で、地元のベースや雑誌を通じてアメリカの洗礼を浴びて育ちました。しかし上京してから、今はなき原宿のセントラルアパートメント内の飲食店でアルバイトしていた頃に見た、ヨーロッパに目を向けて展開していたインターナショナルギャラリー ビームスをよく覚えています。そうした様々な時代感のミックスによって自分が形成されました。だからアメリカらしさもあり、どこか洗練されていたフランスの<MILLET>が眩しく見えたのだと思います。」

「1985年に出会った<PORTER>の「グリッパー」は、バッグデザイナーへの道を志すきっかけとなったバックパックです。発表されたのはもう少し前の1981年で、同年に開催されたNYデザイナーズ・コレクティブに出展された由緒ある一品であることを『ポパイ』で読んで知りました。その記事を読んでバックデザイナーという仕事があるのか、と思ったものです。また当時は高値の花だった<GREGORY>も僕の人生に大きな影響を与えたと思います。「デイパック」だけでなく、リュックとしてもブリーフとしても使える2WAY機能の「ミッションバッグ」にも衝撃を受けましたし、”背負うのではなく着る”コンセプトや、過去にエイアンドエフの赤津孝夫会長が仰っていた”バックパックのロールスロイス”という言葉には衝撃を受けました。若者にはなかなか手の届く価格ではなかったため、学生たちは<OUTDOOR PRODUCTS>や<EASTPAK>、<JANSPORT>などを背負っていたイメージでしたね」

ジッパーが付き、バックパックは大衆向けに簡素化されていく。
手前は<GREGORY>のミッションバッグ

自身のターニングポイントには
常にフランスのバックパックが

「会社員として働いていた90年代初期の日本はファッションもカルチャーもフランスブームの渦中でした。<agnes b.>や<SAINT JAMES>などの流れで<Herve Chapeller>人気がすごかったです。出張で頻繁にヨーロッパへ行っていたこともあり、周囲に頼まれてよくお土産に買って帰っていました。後にパリに直営店がオープンしたのですが、それまでは露店の軒先に吊るされているような、やや雑な扱いでしたから、日本とのイメージのギャップに驚いたのを覚えています。それでも<OUTDOOR PRODUCTS>が生産していたアメリカ製のシンプルなリュックは、僕にとってお気に入りの一つであり<STANDARD SUPPLY>の原点にもなっています。<ARTS&CRAFTS>を立ち上げてしばらくしてから、岡山のあるアパレル工場に依頼し、服に使われるミシンや技法、縫製でバッグを作ることにこだわった時期がありました。ある日、児島の生地を扱う会社で60/40(ロクヨン)クロスを見せてもらった時に、これでシンプルなリュックを作ったら面白いんじゃないか、と思ったんです。ナイロンよりも厚みやコシがあり、天然素材が含まれているからブランドのイメージからも離れることはない。しかし当時はまだ草木染めを施したエイジングキャンバスが人気だったこともあり、<STANDARD SUPPLY>を別に立ち上げて、新しいアイコンとして発売するようになりました。それが2014年のことです」

<STANDARD SUPPLY>のスタンダード「SIMPLICITY」

「こうして歴史を振り返ると、生活に密着する道具としてスタートしたバックパックは、ライフスタイルの変遷とともに姿かたちを変えてきました。<STANDARD SUPPLY>も当初からファスナーの仕様を変更したり、引き手を付けたり、補強の範囲を広げたりと毎シーズンアップデートを繰り返しています。決済方法も進化してお財布事情も変わり、持ち歩く荷物が少なくなった昨今は、サコッシュなどの小さなバッグがトレンドですが、<STANDARD SUPPLY>で最も支持されているのはA4サイズが収納できるちょうどよい大きさ。リュックで通勤する人が必要な書類やPCを入れることを考えると、この大きさに落ち着いていると思います。ただ、リュック一つとっても色々なスタイルがあります。主流はずっと泪型とも言われるティアドロップ型ですが、どうしても書類の角が折れ曲がったりしてしまう。その対策としてスクエア型を色々デザインしてはみるのですが、受け入られるにはまだまだクリアするべき課題がたくさんありそうです。僕は常に、時代と並走するフォルムや素材を使いながら、新しいバッグを作り続けたいと思っています」

Item Info.
STANDARD SUPPLY × BEAMS PLUS
SIMPLICITY
DAILY DAYPACK

Color:GREY, BLACK, NAVY /
Price:¥18,000+tax

※2020年3月中旬入荷予定

ITEM LIST
Shop Info.

今回ご紹介したアイテムは<BEAMS PLUS>の各店舗で取り扱い中です。

BACK NUMBER
JPEN
PHILOSOPHY OF BEAMS PLUS

volume.14